「同級生」 桜木 舞
---螺鈿細工の月--- 第四話
同級生より。
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1.回り始めた歯車
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黒川によって債権を肩代わりされた桜木商事は、辛うじて倒産する事なく存続し続ける事となった。
その事実は地元紙等でも報道され、登校した舞にクラスメイト達も口々に声をかける。
「よかったわね桜木さん」
「心配してたのよ…」
そんな言葉等に表面上は笑顔を返しながら、舞は一人空虚な心を抱えていた。
誰にも打ち明けられない影を、その小さな胸に抱え込んで…。
季節は夏から秋へと移り変わり始め、セピア色に変わっていく街の色と同じように、舞の心の何かも色褪せ始めていた。
学校への行き帰りも黒川の車によって送り迎えされ、帰る場所も実家ではなく黒川のマンション。
完全に自由を奪われて虜となった舞。
しかし誰一人気付く者など居ないのだ、今の舞が置かれた悲しむべき現状に。
例え知ったとして、誰がその事実を信じられようか。
学校のアイドルと呼ばれる可憐な少女が、夜な夜な借財の為にその身を差し出しているなどと。
多少、以前よりも明るさの無くなった舞だったが、それはあの件の為だろうと周囲は勝手に納得し、2週間も経てば舞の微妙な変化など気にする者など存在しなくなっていた。
一部の人間を除いて。
仲の良かった者や、舞を意識していた者は、その舞の表情を曇らせる何かが引き続き気にはなったが、舞が何も言わない以上は周囲から聞くことなどできない。
もし聞いたとしても、舞は決して話すことはなかったであろうが。
そして、
「ちょっと!、こんな所に停めたら邪魔でしょ!」
舞を迎えにやって来た黒川の黒塗りの高級車に対して、下校しようとした女子生徒の一人が怒鳴りつけた。
確かに校門の前に堂々と停められた車は、生徒の出入りを若干であるが邪魔していた。
(五月蝿い小娘だ……)
真っ黒なフィルムの貼られた車内から黒川は少女を一瞥する。
髪をポニーテールでまとめた元気の良さそうな少女は、降りてきた運転手に早く車を退かすようにと文句を続けている。
それを、背後から駆け寄った舞が間に入って仲裁した。
「ご、ごめんなさい…私の迎えなの…」
桜木舞に、申し訳なさそうにそう言われては、文句を言っていた少女も口を止める他には無かった。
「舞の迎えだったの………」
「ごめんなさい…美沙…」
舞は尚をも美沙に謝罪を続けながら、運転手が開いた車のドアへと身体を滑りこませた。
運転手は美沙を一睨みすると運転席へと戻り、排気ガスを撒き散らして勢い良く車を発車させた。
「舞………」
残された美沙は、舞の家とは違う方向へと進む車を、ただ見つめ続けるしか出来なかった。
「お友達は…選ばなくてはいけませんね」
「…………はい」
暗に美沙との付き合いを否定している黒川に、舞は視線を落として返事を返す。
舞の返事に満足げに頷き返すと、黒川は車の後部座席で舞の身体を引き寄せ、強引に唇を重ねていった。
(今晩も…たっぷりと可愛がってあげますからね……舞)
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2.譲れない壁
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リビングの壁に掛けられたカレンダーには、2〜3日置きに赤く丸印が記されていた。
それは舞が黒川に抱かれた日。
舞が初めて黒川に抱かれてから2週間程が経過し、カレンダーの丸印も6個を数えていた。
つまり、黒川はこの2週間の間に6回、舞を抱いたという事になる。
回数としては舞自らの予想よりも少なかったし、その行為も決して力任せなものでは無く、黒川はあくまでも優しく舞を抱き続けた。
もちろん、舞の当初の希望である通りに膣内に射精する事も無い。
それが何時まで続くのかは解らなかったが。
舞と共に部屋に戻った黒川は、ネクタイを緩めながらカレンダーに赤いペンで今日の日付を丸く囲む。
そして舞を促してベッドルームへと向かった。
全裸になった舞をベッドに寝かせると、黒川はその両足を開かせて股間に顔を埋める。
そして、羞恥に顔を真っ赤にして耐える舞の恥毛に手を伸ばし軽く撫で上げた。
「綺麗な…ヴァギナだ……」
故意に言葉に出して言いつつ、黒川はフッと軽く息を吹きかける。
「あっ………」
その瞬間、舞の身体がベッドの上で小さく震えた。
黒川の指が舞の秘肉をゆっくりと左右に割り開き、その奥で微かに蠢く秘唇を露にする。
そしておもむろに、その奥へと舌先を尖らせて伸ばしていった。
(いや………止めて………)
決して口にする事の出来ない拒絶の言葉を心の中で呟きながら、舞はただ身を震わせて耐え続けるしかなかった。
黒川は唾液を舌先に塗して秘唇をなぞるように舐め上げ、そして舌先をクリトリスへと進める。
「ひゃぁっ………!」
この都合6回の性行為によって、舞に現れた変化が一つあった。
それは黒川の愛撫に対する反応。
決して黒川を受け入れる事は無く、頬は羞恥に染まり身体は震えようとも、若い舞の肉体は男を受け入れる事に対して柔軟な反応を見せていた。
元来、平均より敏感だった性感も、繰り返される黒川の愛撫によって更に開発されつつある。
こうして秘唇からクリトリスを舐め上げられただけで、舞の秘所は自然と潤い始めていた。
そんな、心とは裏腹に敏感に反応してしまう肉体を持て余しながら、今日も舞の肉体は黒川の手によって奏でられていくのだ。
「あぁっ……やっ……やぁんっ……はぅっ……!」
乱れた髪を左右に振りながら、舞は甘い響きの喘ぎを部屋に響かせる。
舞のクリトリスを丹念に舐め上げつつ、黒川は中指を軽く舞の膣内へと潜り込ませ、ゆっくりと出し入れさせる。
これほどまでに敏感な反応を見せる舞だったが、この6回の行為の中では一度も達した事が無い。
愛撫によって軽い絶頂は何度も味わうのだが、本価格的な絶頂に達した事は無いのだ。
舞の恐怖心が押し留めさせるのか、それともまだ経験が不足しているのかは解らなかったが。
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3.亀裂
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無意識のうちにシーツの海を掻き毟る舞。
苦悶とも悦楽とも受け取れる複雑な表情で、舞はただ黒川の愛撫に身を委ねていた。
それ以外にこの時間を終わらせる術が、今の舞には無かったからなのだが。
「ふぁぁっ…んっ…んんっ……!」
舌全体でクリトリスを刺激しながら、黒川は中指を一本だけ舞の膣内へと潜り込ませる。
そしてその指先を浅く出し入れさせて、入り口付近を丹念に刺激していく。
その効果は覿面で、たちどころに舞は愛液を大量に溢れさせながら、その身体を激しく震わせた。
しかし、いつ達してもおかしくない程の快感を与えられているにも関わらず、舞は決して達する事は無く、その口から黒川を求める事も無い。
(強情なお姫様だ………)
黒川の忍耐力を持ってしても呆れてしまうほどに舞は頑なで、諦めて強引に快楽に溺れさせてしまおうかと思ってしまう。
(だが……)
そう。それでは意味が無いのだ。
(いずれ……私を求めさせてみせますよ…お嬢様…)
完全に舞の全てを手に入れるには、舞が自らの意思で黒川を求めなければならないのだ。
黒川は気を取りなおすと、再び愛撫へと意識を集中させた。
溢れる蜜を舌先ですくい取り、クリトリスに塗して丹念に舐め上げる。
それと同時に膣内へと潜りこませた指先を掻き回すと、舞は最も感じるようだった。
「あっ…、あっあっあああぁっ……凄いっ……駄目ぇっ……!!」
背中が浮き上がる程に仰け反り、つま先を反らせて舞は身体を小刻みに震えさせる。
小さく断続的な絶頂の波に襲われているのだろう。その表情は苦悶と同時に恍惚としていた。
(これ以上は…無意味だな)
舞が大きく達する事が無い以上、これ以上愛撫を続けても体力を消耗させるだけだ。
黒川は舞の股間から顔を上げて口元を手の甲で拭うと、舞の両足を更に広げさせ、ゆっくりと腰を進めていった。
「いきますよ…」
その言葉と同時に、黒川は舞の濡れそぼった秘所へと自分の分身を突き入れていた。
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4.壁
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「はぁぁぁっ…………!」
(入って……来る………!)
肉襞を割り開くようにして、黒川の隆々とした物が舞の体内へと進入する。
身体の中心に熱い杭を打ち込まれるようなその感覚は、何度経験しても受け入れ難いものがあった。
しかし、それも僅かの間のこと。
黒川の抽送が始まれば、身体は自然に反応して次々に新しい快感を生み出し、全身へとそれを伝えていく。
快感が苦痛を上回ったのは何回目の時だっただろうか。
今ではもう、苦痛は限りなく無に近くなり、快感がその殆どを占めていた。
「んっ、んっ……あぁっ……はぁんっ……んぁっ…!」
堪えていたはずの喘ぎも自然に口をついて出てしまう。
決して自ら求める事は無くとも、これでは黒川を受け入れている事に変わりは無いのではと、舞の心が小さく痛む。
そして意思とは裏腹に快感を受け入れてしまう己の肉体に対しても、嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
黒川は舞の身体の上に覆い被さり、両手で乳房を揉みほぐしながら、巧みに強弱・変化をつけて腰を動かしいる。
何度抱いても舞の身体は色褪せる事など無く、抱く度に新たな発見を黒川に与える。
例えば、舞は言葉で責めながら抱かれる事に、より多くの快感を受ける。
「こんなに締め付けて…嫌らしい身体ですね、お嬢様…」
そう耳元で囁くだけで、舞の膣壁は蠢きながら黒川の物を激しく締め付ける。
若干ではあるがマゾヒスティックな性癖があるのだろう、乱暴な愛撫や言葉で責められると、舞は激しい反応を見せる。
この性癖を利用して舞を更に貶める手段を考えてはいたが、それはまだ暫く先の事にするつもりだった。
まずは、舞に絶頂に達する事を受け入れさせ、黒川自身を求めさせる事。それが先決なのだ。
「嫌……違います………んくぅっ!!」
黒川の言葉によって首筋まで桜色に染めながら、舞は必死に快感を体内へ押し戻そうとする。
しかし、溢れる快感を否定しようとすればする程、体内からはそれに逆らって激しい快感が溢れ出す。
黒川の掌の中で刻々と形を変える乳房が、肉の襞を押し開かれて貫かれる女性器が、屈辱的な言葉によって責められる理性が、全てが快感を生み出して舞を包み込んでいく。
「あっ……あぁぅっ…んんっ!!」
薄っすらと玉のような汗を浮かべた桜色の肌。
その感触を掌の中で楽しみながら、黒川は巧みに腰を動かし続ける。
何度か、小さな絶頂に達する事はあったが、やはり舞は最後の一歩を踏み越えることは無かった。
苦々しい思いと同時に、それでなくては手に入れる甲斐が無いとも黒川は思う。
(……だが、何時までもこのままでは…面白くはないな)
また何か策略を練る必要がありそうだったが、別に急ぐ必要は無い。二人の時間は永遠に続くのだから。
「んっ……んんっ……!」
さすがに長時間の行為で舞の体力も落ちてきている。黒川は頃合を計って舞に囁いた。
「そろそろ…出しますよ」
「はぁっ……中には……中には出さないでっ……!」
虚ろに喘ぎ続けていた舞が、その瞬間だけ表情を取り戻す。
黒川はこれまでに一度も舞の体内に精を放った事は無いのだが、舞は必ず同じように訴えるのだ。
膣内に射精される事に対する恐怖心か、それとも汚されたくない最後の壁なのか。
そして黒川も毎度、同じ答えを返す。
「はい」
数回、力強い抽送を舞の身体に送り込むと、黒川は素早く自分の分身を抜き出して舞の柔肌の上に放出した。
腹部から胸元にかけて、黒川の白濁した体液が汚していく。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ………」
疲れ切ってベッドの上で脱力する舞を残し、黒川はベッドサイドの椅子に腰を下ろして煙草に火を灯す。
(薬は使いたくない…が、ここまで強情ではな……)
何度抱いても受け入れようとはしない舞に、黒川は新たな手段を考えていた。
闇のルートから入手した薬を使えば、舞に快楽を受け入れさせる事はできるだろ。しかし、それでは意味が無い。
人形のように男を求めるような女にしてしまっては、長年の苦労が無意味なものになってしまう。
かと言って、今の舞の様子では黒川を受け入れる事は永遠に無いだろう。
(……………酒か)
黒川の視線の先には、サイドボードに収められた洋酒のボトルがあった。
これならば舞の上辺の理性だけを崩すことができるかもしれない。そう思うと、自然に笑みが零れてくる黒川だった。
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